株式会社愛研 環境保全事業
モキ製作所の薪ストーブ 普及販売】

モキ製作所薪ストーブ生活イメージ

現場で起こる「想定外」とは?(その2)〜メーカーとしてのモキ製作所の対応

【導入事例〜K様邸物語】〜その6〜

モキ製作所の担当者 F氏の判断――メーカーとしての信頼性

「大屋さん、私自身も、昔、ある人から聞いたことを思い出したんですけどね……」

「……ええ。」

「焼却炉のような、燃やすことが目的の装置でも、制御できなくなって、思うように火が消せない場合は「火事」にあたるんですって。焼却炉の中だけで燃えている状態であっても。」

「……焼却炉の中だけで燃えていても、ですか。」

「私も、本当に調べたりしたわけではありませんが……その人は定義としてそうだと言ってましたね。人が制御できない火は、それは、もう火事だと。トラブルで思うように消せない状態になってしまった焼却炉は、施設の運用としては、本来、火事として届出なければならないとか……でも、よく考えれば、火を消すのに水や砂をかけなきゃならないっていうのは、確かに、火事ですよね(笑)」

「なるほど……でも、そうすると、暖炉って、どうなんですかね?あれは、薪が燃え尽きるのを待つ以外に、火を消すって難しいですよね……あれは、その人の定義だと「火事」になってしまうんですかね?」

「……そういや、そうですよね……どうなんだろう?」

「設置状況のようなものが関係して来るとか?暖炉は備え付けのもので、そこが燃えることが前提ですから、最初から火事にならない構造にもなっているし、地震とかでも転倒するとかそういうおそれもないからオッケーとか……まあ、薪ストーブは、ダメですわね。思うように火が消せなきゃ、そりゃたしかに「火事」ですわ(笑)」

「……ですよね?私、なんか、そのことを思い出して……(笑)」

私にとって「悪夢」のような試運転から2日目の朝。私は、この薪ストーブ導入を巡るなんだかんだの中で、すっかり打ち解けたK様ご夫妻のご主人と談笑しながら、モキ製作所の担当者 F氏の到着を待っていた。

試運転で私をすっかり狼狽させた「火が消えないトラブル」は、もう、その日の夜のうちには原因が特定され、モキ製作所 担当者のF氏に伝えられていた。

原因は、シンプル極まりない本体構造となっているMD-80U型薪ストーブの唯一のパッキン、本体正面上部の薪投入用扉の全周に張られたパッキン部分からの空気の混入だった。全体的に「パッキンの当たり」が弱かったのである。

「だって、消去法で考えていくと、原因は「そこしかない」じゃないですか(笑)」

試運転の夕方、本体の下部にたまっている熾火から、炎があまりに美しく立ち上がっているのを観察して、私は、本体下部からの空気混入を疑ったのだが、シンプル極まりないMD-80Uの構造では、そんな本体下部から空気が混入する可能性など皆無で、だからこそ、私は狼狽し、途方に暮れたのであった。

しかし、ご主人は、私が狼狽する様子を尻目に、極めて冷静に、扉が原因ではないかという仮説を、その場で直ちに立てられたのである。

そして、ご主人は、当日の夜のうちに、アルミホイルを使った仮説の実証試験まで行って、自らの仮説が正しいことを確認してしまったのである。ほぼ同じ時間帯には、家に戻って自宅のMD-80Uを使った検証作業を別方法で続けた私も同じ結論に至って、F氏にすでに「扉のパッキンが不具合の原因だ」ということを伝えていたのだが、それとて、ご主人からの「扉が閉まる音って、こんなものですか?なんか、おかしくないですか?」という「その場」での指摘があってこそ、できたことだった。

そうして、F氏には、当日の夜のうちに、具体的な対処日程について翌日には連絡するように要請してあったが、それに対してF氏は、最短日程として、その翌日――つまり、試運転から2日後の朝の訪問予定を組んでくれたのである。

「いやあ……このたびは、とんだご迷惑をおかけしまして、本当に申し訳ありません。」

F氏は、到着するなり、そう言って頭を下げた。人懐っこい笑顔が印象的なF氏であるが、営業部門では中心的な人物の一人で、経験も豊富である。モキ製作所としては史上最高の性能を叩き出したMD-140U型薪ストーブの開発プロジェクトでは営業サイドのチーフを務めて、その仕事に賭ける情熱から、技術サイドのチーフが夢でうなされるくらい激しくやりあったと、私は、技術サイドの当のチーフから聞かされたことがある。

F氏は、その日、長野の千曲にある本社から、パッキンと、出荷検査に合格したばかりのMD-80Uを積んだ車を駆って、はるばる駆けつけてくれた。聞けば、やはり、とんでもない早朝に千曲を出てきたとのことである。

「基本的に、パッキンの取り換えだけで対処は可能です。でも、本当に運良くですが、出荷予定を調製して、一台、新しい機体を確保できましたので持って行きます。もしよかったら、そちらとの交換という対応も可能です。」

ご主人と私は、あらかじめF氏から、本件に対するメーカーとしてのモキ製作所の対応として、そのように聞かされていた。そこで二人で相談した結果、新しい機体のパッキンの今の状況や、今後の管理でのパッキンの交換作業に関する諸々について、実機に実際に触れながら検討して、パッキンの手直しか、丸ごと交換か、どちらか少しでも良い方を選ぼうと決めていた。

「この機体のパッキンが問題ないことは、昨日、私も検査にしっかりと立ち会って確認しました(笑)」

F氏が持ってきた新しい機体を触ってみると、たしかに扉の閉まり具合が違う。設置したものと比べて、はるかにしっかりした感触が手に伝わってくる。そこで、それでは…とF氏の申し出に甘える形で、本体ごと入れ替えることにした。

F氏は、現在、工場で行われている薪ストーブの出荷検査について説明をしてくれたが、どうやら、工場での出荷検査を有効に改善するためには、トラブルを起こした実機を「そのまま」持って帰ることが必要と、最初から考えていたようである。

私は、販売代理店の人間として、メーカーであるモキ製作所の製品不良については、当然、今後そのようなことがないように強く申し入れる義務があるが、再発防止を具体的にどうするかという方法の詳細については、メーカー社内の現場の話であり、今のところ、そこまで踏み込むつもりはない。私は、このF氏の「実機を持ち帰る」という対処方針に、とりあえず満足した。

このような人間がいて、このような対処が迅速に取られるのであれば、モキ製作所は、メーカーとして大丈夫であろう。

「……まあ、かえって、これで良かったのかもしれませんね。大屋さんにしてみれば、それどころではなかったでしょうけど(笑)」

ご自身も、この件によって、夜までトラブルの検証試験をやられたり、仕事を余分に休む羽目になったり、相当な迷惑を被ったことは間違いないのだが、そんなことは一言も口にせず、またメーカーとしてのモキ製作所の「落ち度」も一言も追及することなく、ご主人は穏やかに笑われた。

相変わらず寛容ではあるが……私たちの落ち度を追求しようと思えば、いくらでもできるのである。全て、わかっているのだけど、あえて、責めない。こういう人が一番「こわい」。

私がメーカーとしてのモキ製作所に言いたいことがあるとすれば、こんなK様ご夫妻のようなお客様が、モキ製作所の薪ストーブについて、巷によくある薪ストーブの一つとしてではなく、モキ製作所ならではの真価――普通の薪ストーブに比べて、とんでもなく高い実用性能――を期待して、選んで頂いているわけだから、そこについてはどうか、くれぐれも間違うことなく、これからも大切にしてほしい……ただ、それだけである。

最後の作業――新しい薪ストーブ本体の空焼きと再設置

「新しい機体と、入れ替えていただけるのはありがたいですが……あの、塗装を焼く煙……あれを部屋の中でもう一度やるというのは、勘弁していただきたいんですけどね(笑)」

「大丈夫ですよ、お許しいただければ、庭でストーブを焚かせて頂いて、塗料を焼き切ってから、設置するということができますから。」

F氏は、いかにも「手慣れたこと」という様子で答え、K様邸の庭に仮設された、工場から出荷されたばかりの、この上なく真新しい薪ストーブに煙突を立て、本当に手慣れた様子で、初めての火を入れた。

私などは、例えば「火入れ」のような、初めての行事や儀式みたいなものに「弱い」。なので、お客さんの手に渡る設置の前に一度火を入れてしまう、というのは、抵抗がないわけではないが、この塗料を焼く煙の問題を考えると、この設置前に業者側の管理のもとで一度火を入れてしまう方法は、非常に合理的である。

また、F氏の薪ストーブの点火方法は、私からすると、無造作、とも言えるような、豪快なやり方である。適当(?)に突っ込んだ多量の段ボールの上に、薪をバラバラと置いて段ボールに火をつけると、最初から炎が盛大に上がって、薪がたちまち燃えだした。

「……大屋さんに教わったやり方とは、だいぶ違いますね。この薪は何の木なんですか?」

「カラマツ、ですね。私たちのいるところだと、製材屋で端材として大量に出るんですよ。それを非常に安く買うことができますから……会社の事務所の暖房とかも、全部、これです(笑)」

「……この方が、簡単そうでいいですね。人によって、色んな火のつけ方があるものなんですね。これは参考になりますね(笑)」

「……やっぱり、経験が違うんでしょう、Fさんは。もう、全国あちこちで、イベントとかでストーブを焚いて歩いていらっしゃるから(笑)」

本当は、とても負けず嫌いの私は、内心で落ち込みながら、笑顔で「負け」を認めた。

ただ負け惜しみを言えば、状況次第なのである。段ボールが大量にあって、用材として乾燥されたカラマツのような、とても燃えやすい薪が多量に手に入るなら、F氏のやり方は非常に合理的である。けど、我が家のようにチマチマした小枝こそ手に入るけど燃えやすい薪は手に入りにくい、年中「アウトドア焚火材料探し」のような状況では、小さな火から丁寧に育てるノウハウが生きる。

あと「実務的な知恵」として、参考までに書いておくと、落ち葉などでも同じなのだが、段ボールなど、紙のような薄くて軽いものを盛大に燃やすと、煙突への激しい空気の流れが生じて、なにしろ軽いだけに「真っ黒に焦げた」状態のままで煙突から外に運ばれてしまう。なので、一番「クリーンに」焚こうとすれば「アウトドア焚火」よろしく、基本的に木だけを使って少しづつ炎を育てていくのが一番良いのである。

……私は、いつも、こうやってグチグチと後から言い訳をする格好の悪い人間ではあるが、私は、ここでも改めて「いい勉強」をさせてもらった。ユーザーさんの置かれた状況によって異なるのである。最適解は。であるならば、とにかく「これが一番良い」などと思わず、一歩引いたところから選択肢を柔軟に示すことだ。これは、私のように仕事に思い入れが強く、最適解をつい追及してしまう人間ほど、難しいことであると言えよう。

盛大に炎を上げながら、これまた盛大に表面から塗料を焼き付ける白い煙を上げて燃えていた新しいMD-80Uだが、2時間ほど過ぎた頃には、煙も臭いもかなり落ち着いてきた。

「……そろそろ、煙も収まってきましたかね?熾火を取り出して、本体が冷めたら、部屋の中に運び込みましょうか。」

F氏は、謝罪のために意識的に着てきたと思われるスーツ姿のままで、「スーツですか?…いや、構わないですよ(笑)」などと言いながら、手袋だけはめて、一度とはいえ、すでに「火入れ済み」となって、ススも多少はついているし、そもそもまだ一部熱いままのストーブを、私と二人で部屋に運び入れ、設置した。ちなみに私の服装は、最初から再設置を想定していたので、全くの作業着である。

私は(あとから聞いたところでは、F様ご夫妻の奥様も私と同じように)、「ここまで身を張らなくても」……とは思ったが、F氏の身の処し方は、営業として、なかなか見事であった。それに対してK様ご夫妻は、常にそうであったが、この時も奥様が、豆をその場で挽いた、とても美味しいコーヒーを淹れて、私たちの労をねぎらってくれた。このような細かな思いには、やはり遠路はるばるやって来たF氏も、とりわけ感じ入るところがあったようである。

朝一番から始まった、トラブル原因の確認と本体の入れ替え作業は、塗装の焼き付けも含めると、丸一日の作業になったため、新たな薪ストーブが室内に設置された頃には、もう寒くなり始めていた。

「もう、火をつけておきましょうか。」

F氏は、やはりスーツ姿のままで、庭での点火に引き続いて、室内でもいかにも手慣れた点火方法を披露し、庭で火をつけた時にはいなかった奥様も、段ボールを大量に使って盛大に炎を上げながら点火するやり方に「これはいいわね」と感心していた。ちなみにその後、K様邸での点火方法の「標準」は、このやり方になったそうである。

薪ストーブは順調に燃え、そして自在に消火し、この日の再設置は、あっけないほど順調に終わった。私の仕事は、この予定外の対応のために丸一日が費やされ、年内に終わらせなければならない仕事がまだ山のように貯まっていた。それをこれから会社に戻って深夜になっても片づけなければならない。それでも私は、とても上機嫌にK様邸をあとにした。

「これでK様ご夫妻は、もう、寒さに悩まされることもなく、安心して上質な暖かさを味わっていただけることになる。なんとかギリギリ、及第点の仕事になったかな……」

実際に、モキ製作所の薪ストーブのユーザーの一人である私からみても、うらやましいくらいの最高性能の薪ストーブが、ちゃんと設置できたのだが、それは、最初に相談に伺った日から、実に8週間もかかったあとの、年の瀬押し迫ったこの日になってしまった。

それでもちょうど、この年の暖冬に助けられ、これから来る本格的な寒波に対し、なんとかギリギリのタイミングで間に合ったのである。

仮のエピローグ――「仕事を提供する側」の思い

「オレがもし居たら、絶対に、お前のこの事業提案は、認めなかったけどな……そんな提案、即、却下……却下!(笑)」

時間は少しさかのぼって、K様邸に薪ストーブを設置するための検証作業が最終段階を迎えていた頃、名古屋東部の某駅前。私は、Tさんと久しぶりに酒を酌み交わしていた。

「こんなのお前、実際の事業としては成立しないだろう。なんで社長は、そんなのを認めたんだろうなぁ……」

Tさんは、今は隠居の身であるが、元は弊社の役員であった。さらにそれ以前は県の役人として、異例なことだが、仕事の中で国際的にも認められる学術研究を行い、大学から博士号を授与され、環境大臣表彰まで受けられた人であり、研究者を志して大学院に行ったものの箸にも棒にも掛からず環境調査会社でルーチンワークをこなしていた私に特に目をかけ、学術論文に掲載されるまでの本格的な調査研究ができるまで指導してくれた。私にとっては恩人であり、私が師匠と崇める人の一人である。

私たちの、このモキ製作所の薪ストーブの設置販売事業は、環境保全事業としての位置付けであるが、そもそも、それまでに弊社に環境調査に基づく環境保全事業としての具体的な実績がなければ荒唐無稽な話に過ぎず、その実績はTさんが居てこそのものだった。

その意味でTさんは、本事業の生みの親であるし、さらに事業のパートナーとして不可欠なM社長とのご縁は、このTさんが私を連れて行ってくれた日本陸水学会東海支部会という研究者の集まりがあるのだが、そこで仲良くなったNさんという方とのご縁から生じたという経緯まである。

「……いやぁ、そりゃ、今のところ、この事業は、確かに、完全に赤字ですけどね?……」

「そりゃそうだろう。そんなの、やる前からわかっていることだ(笑)……オレは、心配してるんだよなぁ……採算が合わずに社内で後ろ指差されるような事業を、お前一人だけ、ずっとやることになるんじゃないかと思ってな……お前には、もっと他にやることがいくらでもあるはずだ。重要顧客の営業はどうしたんだ?」

「ええ……私も、そっちをやりながら、この事業を手掛けるつもりでしたが……そっちは、社長の指示で、完全に外されました。でも、やってみてわかったんですけど「やりながら」では、到底、無理でした。専業でやっていかないと。それでも、軌道に載せれるかどうか。思ったよりも、ずっと大変ですよ、これは。」

「……それで、お前は、薪ストーブ専業か……大丈夫なのか?愛研は。今、大変じゃないのか?」

「生みの親」ともいえるTさんからの、「思わぬ」というか、正確には「いかにもTさんらしい」叱責を受けながら、私は、不思議な偶然を改めて感じざるを得なかった。

この恩人が愛研にいれば、そう、絶対に事業化は認めてくれなかっただろう。その恩人が会社を去り、私がこの新規事業を提案した時に、ちょうど就任したばかりだったのが、今の社長である。もう少し言えば、今の社長でもなければ、他の誰も、認めてなどくれなかっただろう。

「けど、これに限らず、事業の立ち上げ、というのは……何でも、そんなものかなと思いますよ?片手間でできるようなものではない。よほど集中してやらないと……そんな経験ができることは、まずないです。私は、ムチャクチャ幸運だと思っていますよ?」

「……まあ、そうだな、軌道に乗ってしまえば、な……まあ、やるなら、頑張って、ちゃんと採算に乗せてしまうんだな。オレ、今でも結構、愛研のホームページとか、見てるんだよ。お前が全部作っているんだろ?あんな文章。あんなの、難し過ぎて、誰も読めないぞ(笑)……」

そのことは、とある人からも言われた。Webマーケティングの世界では非常に有名な人である。ちょっとしたご縁から、直接ご指導いただく機会があり、私が最初に作ったWebサイトは「これ以上ないほど」のダメ出しをされた。その指導を受けて、私がWebサイトを多少なりとも改善しなければ、おそらく、この記事がお手元に届くこともなかっただろう。そういう意味では、これは「私の力」ではない。

そして「誰も読めない」部分は、なかなか改善できていないけど、それでもこうして読んで頂けている。実はそのことだって「私の力」ではない。「物書き」としての私は、その方の名誉のためにあえて名を秘すが、とある一流の作家からの手ほどきを、不定期だが、ご厚意で、直接いただいており、私のこの物語が多少なりとも「読める」と思って頂けるとするならば、それは、その人からの手ほどきの成果である。

Tさんと久しぶりに酒を酌み交わしたことをきっかけに、そんなことを改めて思ったのだが、本当に、事業なんて、自分一人の力で始められるなんてものは、何一つない。

私は、モキ製作所の茂木社長が独創的なアイデアで開発した薪ストーブの「従来の薪ストーブからすると常識外れな高性能」をたまたまユーザーとして知って、これを世の中に拡めれば、庶民的な暮らしに密着した森林資源の継続的な地産地消の流れが生じて、そこに住む人を実際に幸せにするような、地域の自然環境保全につなげることができるのではないか?という「ストーリー」つまり「理念」を自分なりに確立した。

そこで、この事業を立ち上げたのだが……今のところ、そんな「理念」が役に立ったためしはない。

むしろ、そんな「理念」なんか何も関係なく、これまでの人生で、目の前に偶然現れた人とのご縁をつないでいったら、たまたま事業にできた、というのが真実である。そしてそのことは、事業レベルではなくK様邸での薪ストーブ導入という個々の仕事においても同じであった。

私がどんなに立派なことを口にしようとも、本事例を成功事例にできたのは、ここまで書いてきたように、K様ご夫妻の慧眼と寛容によるものであり、M社長の現場力であり、F氏の営業としての身の処し方であり……実は、私の力など大した要因ではなく、仕事は人のご縁、ということ以外の何物でもなかった。

仕事は人のご縁あってこそ、というのは、もちろん「仕事を提供する側」だけの話ではない。このような仕事では、「仕事の成果を享受する人」にとっても、どのくらい幸せになれるかを「ほとんど全て」決めてしまう。

これを、お読みになって頂いているのも何かご縁なので、どうか、良い薪ストーブ設置業者の方とご縁を得て、幸せになっていただきたいと切に願う。

なぜなら、薪ストーブ自体は、本来、使う人を幸せにするポテンシャルを存分に秘めたものであるけど、「仕事を提供する側」の思いには、実際問題、あまりに差がありすぎて、それが、少なくとも薪ストーブ導入のための費用総額としては、見分け難い、同じような顔をして並んでしまっているのだから……

そのような「厳しい現実」に対して、私が、この物語を通して主に訴えようとしたのは、「仕事を提供する側」の思いである。そしてそれが、具体的にどこに現れるのか?――

――私はこの物語の冒頭、それは導入費用総額には現れない、と述べた。本当にいい仕事をしようとしている人が請求する費用は、決して安いものにはならないが、さりとて、世間相場よりも高い費用はむしろ「取れない」。なぜなら自らの仕事を通じて「仕事の成果を享受する人」に幸せになって欲しいという「思い」をもってやっているのだから。

すなわち、そういう人は、お金が儲かるかどうかは、ユーザーが幸せになれるかどうかの結果に過ぎないと考えていて、事業を継続するために見合う費用は頂かなければならないけれど、それ以上に高すぎる費用を取ることはない。世間相場よりも高い費用は、それだけでユーザーが幸せになりづらいから、むしろ取るべきではないと考えているからである。

だから、「本当にいい仕事」、「良心的な仕事」は、皮肉なことに、本質的に続くかどうかわからないという側面を持っている。そして、仕事を提供する側のそんな「思い」は、普通は表に出ることはない。ただ、時の流れの中に、静かに埋もれていくだけである。

でも、その「思い」は、それがホンモノであれば、後々まで「仕事」の中に残って、「仕事の成果を享受する人」に幸せを届け続けることになる。

そして「仕事の成果を享受する人」は、その幸せを感じることができた、そのときはじめて、この仕事をした人の「思い」に気付き、その人に、思いを馳せることができるだろう。たとえその時には、もう、その人はこの世に居なくても。

それが、仕事というものの、本質である。

……さて、そのようなわけで、私たちのこの事業が、これからどうなるか、無責任な言い方だが、ご縁があれば続くだろうし、なければ事業廃止ということになるだろう。少なくともモキ製作所の薪ストーブという、ユーザーの幸せを現実的かつ高度に具現化することができる道具を扱っているわけだから、これからも良い人とのご縁があればと願う。

けれども、少なくとも「今回のこの仕事」に込めた私たちの思いは、ずっと残る。それはたとえば、この煙突配置として。ずっと後年になって、K様ご夫妻が高齢になってからでも、ベランダから身を乗り出すこともなくご自身で安全に煙突掃除をし続けて頂けるよう願って設計施工された、この仕様として――

仕事を提供した側としての「K様邸物語」は、これで終わりである。だが、この物語の本当のエピローグは、仕事の本質に照らして、あくまでも「仕事の成果を享受する人」であるK様ご夫妻が、実際に幸せになれたか、あるいは幸せになれそうか、ということでしか記述されることができない。

企業の人間として、一般のお客様に、そのような無理をお願いすることはいかがなものかとは思うが、K様ご夫妻という得難いお客様から、ご厚意を特別に頂けたことに甘えて、私、株式会社愛研 環境保全事業【モキ製作所の薪ストーブ普及販売】担当者である大屋は、ここで筆を置くこととする。

本当のエピローグ『薪ストーブは私達を幸せにしたか〜K様ご夫妻の実際のご感想』

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