株式会社愛研 環境保全事業
モキ製作所の薪ストーブ 普及販売】

モキ製作所薪ストーブ生活イメージ

現場で起こる「想定外」とは?(その1)〜衝撃的すぎた「あり得ないこと」

【導入事例〜K様邸物語】〜その5〜

想定・検証、そして対策、その繰り返しの先にも、なお……

仕事というものの正体は、要するに、誰かの期待に応えるということである。

もし世の中に「いい仕事」というものがあるとすれば、それは、ユーザーの「表明されている期待」に応えることはもちろん、「表明されていない期待」にも、プロとしての知識と経験をフルに活用して応えたものである。それはときに「表明されている期待」に応えるよりも、ずっと重要な場合もある。

なぜなら、ユーザーは「その仕事の内容」については、あくまでも素人に過ぎず、自ら表明している期待は、その人が「大切にしている」ことではあるけど、そのことが、仕事全体においてどれほどの本質的な意味を持つかも、あるいは、その仕事が本来持っている「表明されていない期待」に応えるための、他のもっと「本質的に大切なこと」についても、多くの場合、よくわかっていないのだから。

すなわち、難しい「仕事」というものがあるとすれば、それはユーザーの意識下にある「大切にしていること」を受け止めながら、意識下にはない「本当の望み」もよく考えて、最終的に「期待以上」、消極的に言えば、ずっと後々になって後悔や「がっかりさせること」のないよう、想定に想定を重ねなければならない種類のものであると言えよう。

そのような仕事にこそ、プロとしての存在意義があるのであって、薪ストーブの導入設置というのは、本来、まさにそのような仕事の代表例である。

以前にも書いたが、私は、家の構造や造作そのものが関係する薪ストーブ設置の仕事では、到底、本来の意味での「仕事」などできないので、その部分をM工務店のM社長を見込んでお願いしている。

M社長は、やはり期待以上の周到な想定をもって、設置工事に臨んでくれた。想定と検証を繰り返しては、未然に手を打っていた。

最も重要だった検証は「果たして煙突がしっかり付くのか」――K様ご夫妻のご主人も「専門家の方々には「釈迦に説法」かもしれませんね」としながらも意識していることを要所で表明していたこの問題に関して、M社長の検証は、設置工事まで伸びた期間を最大限利用する形を取りながら、煙突メーカーとして出してきた煙突設計への疑義という事態にまで及んでいた。

「煙突メーカーが実際に出してきたこの部材だと、荷重方向への強度が不足しているんじゃないかと思うのですが……」

本事例では、私の判断で、コストダウンのために煙突部材の仕入れ先を変更したが、M社長は、変更前の仕入れ先ではこういう設計は経験がなかった、と言うのだ。

詳しい経緯は省くが、事態を理解した私は、煙突メーカーが設計ミスを認めれば当該部材を返品キャンセルして発注をし直す方針でM社長に交渉に臨んでもらい、M社長は、煙突メーカーに設計が「灰色」であることを自ら認めさせてしまうところまで追い詰めた。

「結論的には、取り付ける家の構造材の強度によります。よほどしっかりした強度があれば見た目も格好よく、しっかり取り付けられるのですが、そこは家の壁の中の話なので……やっぱり、現地で実際にやってみないとわかりません。現地でやってみて、不安がある場合は、補強を加えましょう。」

ただ、この一件で、私はまた改めて思い知らされる羽目になったが、やはり、コストなのである。関係部材一つとっても、いちいち値段が大きく違う。変更前の仕入れ先の部材だと相当高くついてしまうために、容易に入れ替えることができない。

現場の状況によっては、最小限のコストで最良の結果まで持って行けるが、現場の状況が良くない場合でも「つぶし」を効かせるには、計画段階で「余分に」コストをかけておくしかない。

費用削減は、やはり、リスクと表裏一体なのである。特に現場次第という性質が大きい仕事については。

本当に幸いなことに、補強の準備もして臨んだK様邸での設置工事では、この部分の家の構造材が最良の条件に当たってくれたので、煙突メーカーの設計のままで補強の必要もなく、私は、設置工事の当日、本当に胸を撫で下ろしたのだった。

さて、2日間として計画された設置工事の当日。そのように、経験豊富なM社長が想定に想定を重ねて臨んだので、ご主人の手作りによる立派なテラスの一部解体など関連作業も含め、初日前半の、煙突設置を先に手がけていく屋外作業は、薪ストーブ関係としては相当手間もかかった高度なものであったはずだが、とても順調に進んだ。

この設置工事当日までに、私は、この事例について弊社のWebサイトで紹介させて頂きたいという営業としての私の無理なお願いについて、K様ご夫妻からご承諾を頂いていたので、順調に屋外作業が進む中、初日に仕事の休みを取って立ち会って頂いたKご夫妻の奥様と時々談笑しながら、工事状況の写真を撮影したりしていた。

「設計からの煙突の配置誤差は2センチです。」

「どちらですか?横方向?縦方向?」

「縦、上下方向です。」

「ああ、それなら問題ないですね。横引きから薪ストーブへの接続にはスライド管(長さを変えられる煙突部材)が使われているから、充分、調整の範囲内ですね。」

M社長からの報告を聴いて、屋外の煙突設置作業が順調に進んでいるのを確認した私は、設置予定場所に仮置きされている薪ストーブMD80-Uと炉壁・炉台を眺めた。

「美しいな…」

まさに部屋の中央に整然と配置された、その美しい眺めこそが、これまでの自分自身の様々な苦労に報いるものであるかのように思われて、私は、しばらく独りで、感慨にふけっていた。

ちょうどそこへ、M社長が、助手を引き連れてドカドカと入って来た。厳しい表情をしている。手には、図面とメジャー。

「I君、ちょっと、そっち持って?そう、それで、こっちに動かすよ?……先に、薪ストーブをいったん外すか。布を敷いて……そう。じゃ、炉台、いくよ?……うん、このくらい。薪ストーブを戻してみて?」

中央から、柱一つぶんくらい、左側(煙突を配置した側・東方向)に移動された薪ストーブ。何が起こっているのかわからずに、キョトンとしてその様子を見ていた私に、M社長が告げた。

「大屋さん、今、現物で実際に確認してみたんですが、薪ストーブの設置位置が変わります。計画位置から、11.5センチ。」

実際に動かされた薪ストーブの配置は、10センチ程度とはいっても、もはや、美しさとは程遠いものだった。なまじ柱が炉壁の端のすぐ近くにあるために、配置が中央からずれていることは、誰の眼にも明白であった。

こうして「物語」として書いている今、その配置がいかに美しくないものであったか、写真に1枚でも残しておけばエピソードの一つとして良かったな、などと思うが、当事者としてその場にいた私は、もはや「物語」どころではない。写真のことなど完全に頭から吹っ飛んでいた。まさに「想定外の事態」である。

「想定外」の原因と対処――そして今後への思い

「一体、どういうことですか?誤差は2センチ、しかも、上下方向で、横の誤差はないって話だったじゃないですか。」

「わかりません。でも、現物を合わせてみると、そうなってしまうんですよ。この位置で、間違いないです。」

「設計に、何か、問題があったんですか?測り間違いとか?」

「いや、それは、ないはずなんですけどね……」

経験豊富なM社長の、そんな表情は見たことがないな、と思うような困った顔と、美しさから程遠い配置になってしまった薪ストーブを交互に見ながら、私は、考えを巡らせはじめていた。

「……とにかく、なんで、そんなことになるのか、原因を調べてみて下さい。」

「わかりました。」

独りになって考えを巡らせる。どうすればいい?室内での薪ストーブの位置を中心にして、それに合わせて屋外の煙突設置を全部やり直す?……いや、固定金具を取り付けていく全部の作業は、ものすごく大変で、もう雨漏り防止の入念なコーキングまでも全部終わっている。そもそも、煙突の立ち上がりラインを、10センチも壁の中心に向けてずらしたら、ベランダと煙突の離隔が確保できなくなるし……

思考はグルグルと無意味に巡るばかりで、全くまとまらないまま、どのくらい時間が経ったのかもわからない。M社長が戻って来た。

「原因がわかりました。エルボ管ですね、45°として設計したじゃないですか、ところが、実際には45°ない。足りないんですよ、角度が。それで、壁の真ん中に届かなくなっているんです。」

「そういうことか!!……でも、そんなことって、本当にあるの?」

「ええ……実際に測ってみましたが間違いありません。部材の精度が出てないということでしょう。このまま設置を続けるなら、この位置に据えるしかありません。」

何が起こっているのか、やっと明確にイメージできた私の頭の中に、とっさに、あるアイデアが浮かんだ。

「M社長、あの、横引きのところに、200ミリ管を噛ませることになっているじゃないですか。今回、壁からの離隔を充分に取るために。あの200ミリ管を、この斜めの直管のところに足したらどうですか?そしたら、だいたい壁の真ん中に来ないかな?横引きの高さは下がるけど。」

「横引きから200ミリ管を、ですか……付け替えることはできますが、そうすると離隔の問題が……」

「M社長。」

「はい。」

「離隔が足りない分は、後からだって、その分の長さの管を継ぎ足すことができます。ストーブを前後の位置は後からでも変えれるわけですから。でも、壁の穴は、一回開けてしまったら絶対に変えられないんですよ?こんな、壁の中心からから外れたところに穴を開けるわけにはいかない。取り返しがつかない。なんとしてでも、真ん中に開けるようにしなきゃ……」

「……」

「もし、それでやった場合、いけるかどうか、とにかく実際に検討してみてください。それで、具体的に、どれだけ真ん中に寄せれるか。」

「……わかりました。計算してみます。」

ちょうどそこへ、工事に立ち会って頂いている奥様が戻って来た。

「あれ?どうしたの?なんで、ストーブの場所を動かしているんですか?」

「……あの……もし、薪ストーブの位置が、ここになりますって言ったら、どうでしょう?」

「は?どうって……そんな、どうなんて、聞くんですか?」

「(理由と現在の状況を説明して)普通の業者でしたら、どうしようもありません、これでいくしかないです、という話も、なくもないのですが……」

「……普通の業者だったら、そうかもしれない。でも「あなたなら」どうなんですか?大屋さん。これで仕方ないです、なんて……本当に言うんですか?」

「……いや、これはダメだと思います。」

「ですよね?これは、あり得ないでしょう?」

「……わかりました。なんとかします。」

……とはいったものの、さっきM社長に計算をお願いしたアイデア以外には、何も浮かばない。とにかく、祈るしかない。感覚的に、いけるんじゃないか?とは思ったけれど、本当にいけるのかどうか……

「本来の位置からの、ずれの計算結果が出ました!」

外に出て測ったりしながら計算していたM社長が、電卓を片手に戻ってくる。私は唾を飲んでから、おそるおそる、聞いた。

「どのくらいですか……?」

「15ミリ、1.5センチです!」

「……よし!良かった!それなら大丈夫。それでいってください!」

心の中では、2センチだったら良いな、と祈っていた。そのくらいであれば、実際の部材の「あそび」も使ったら、本来の位置にかなり近づけることができる。

こうして横引きの高さは、これまでの打ち合わせで「このくらい」と示していた高さよりは明らかに低くなったが、それについては、K様ご夫妻に説明し、その場でご了承を頂いた。

ただ、この件は、K様ご夫妻にしてみれば、相当に「衝撃的な出来事」だったようで、あとになって、個別に、次のような「苦言」を頂いてしまった。

「大屋さん、愛研さんとして、今回は、本当に「いい経験」になったと思いますよ?この横引きの高さの変更、私は「別にいいですよ」って言いましたけど「こんなの絶対に認めない」って言う人も、世の中には居ると思いますよ?」(ご主人)

「あの時は、本当に怖かった。もう、薪ストーブの設置なんて、やめてしまおうかと思った。」(奥様)

私が本事例を通して、改めて実感したのは、K様ご夫妻が、いかに家を大切に思われているか、ということであった。私の営業対応には至らない部分も一杯あったのだが、そちらには極めて寛容である一方、家を「傷つける」ことには、とてもセンシティブであった。それは設置工事の場面では、それぞれの作業で生じたビス穴一つの処理について、具体的な要望を、その都度頂くといった感じであった。

家へのそんな思い入れは、別にK様ご夫妻に限った話ではない。薪ストーブの導入設置は、そんな思い入れのある家に「大穴」をあけることである。今回、ご主人がおっしゃるとおり、一番の「大穴」が「成り行き」で変わってしまうなど、普通のユーザーの立場からすれば、本来「許されない」ことであろう……それがいかに「やむを得ない」事情であったとしても。

私たちは、期待に、応えなければならない。必ず。

だから、薪ストーブの販売設置を仕事にするようになった私は、今回の事例も含めて、この仕事に深く関わるようになるにつれて、ある種の「闇の深さ」も感じて、今後に向けて気が重くもなっている。

今回「45°固定エルボ管」が、実際には45°よりも曲がっていない製品であったことは、おそらく、私の煙突部材の仕入先変更の判断がもたらした結果であろう。部材が防火上のEUの基準を満たしていることは確認したが、国内制作ではなく、手作り溶接だからか傾きなど細部の精度はもともと厳密ではないのだろう。そこは高価な国内製作品では「防げた」かもしれない。

だが、どうやら薪ストーブの設置の「大勢」からすると「そんなもの」であるのだろうとも感じている。すなわち、薪ストーブの設置は現物合わせが基本で、構造物をギリギリの離隔で緻密にかわしていくような、設計どおりに正確なラインを描かせることなど「最初から想定されていない」。

これは、煙突設計に関してM社長が厳しくあたった部材メーカーとの折衝内容を聴いても感じたし、また、ユーザーとしての私が導入した我が家の薪ストーブの煙突設置方法を、今、改めて眺めると、悲しいくらいに「成り行き任せ」、「いい加減」である。

離隔をギリギリに取って可能な限り横引きを短くしようとか、そういう設計上の思い入れは何も感じない「お気楽な」設置。これでちゃんと性能が出たのは、もはや「運」としか言いようがない。街で薪ストーブのある家の煙突配置を注意深く見ていると、そんな煙突配置は我が家だけでなさそうだし、また、正確にはこれを「エビ曲がり」と言うのであろう、アコーディオンの蛇腹のような部材で煙突を曲げてある設置例も珍しくない。

蛇腹のような部材で曲げると、角度は自在なので正確なラインは出せるが、当然「そこだけ」断熱剤入りの二重煙突ではなくなり、煙道温度が下がるために、「そこ」にタールやススがこびり付き易くなる。ましてや形状からして掃除がもともと困難である。つまり、煙突掃除にとっては、蛇腹のような部材は致命的な弱点になるのに、それには長期的にどう対処するのであろうか。

ともあれ、K様邸での薪ストーブ設置は、その「横引きの高さの変更」によって再び順調に進み始めた。M社長の手配による仕事はやはり見事で、煙突を含む設置工事本体はもちろん、エアコンの移設も美しく行われ、設置工事2日目の午後には、試運転を行うまでにこぎつけることができたのであった。

いよいよ試運転――期待したどおりの高性能、しかし……

モキ製作所の薪ストーブは、錆止めのために塗料を最初に焼き付ける必要がある。その際は本体表面の塗装から煙が大量に発生するため、窓を全て開け放したうえで、表面温度が一番の高温になるまで、最高出力で運転する状態まで持って行かなければならない。

それは、窓が開いた半屋外の状態でも、大きな本体全体から発せられる強力な遠赤外線でちゃんと暖かいという、モキ製作所の薪ストーブならではの性能を最初に実感できる機会でもある。

設置工事の2日目、試運転の日は、窓を開け放す必要のあって、なおかつ遠赤外線の効果も実感できる日としては絶好の日和であった。この日を、今か今かと待っていたK様のご一家も、工事に携わったM工務店の職人さんも、皆が楽しみに見守る中、私の手ほどきで、ご家族の方ご自身で薪を積んで頂いて、火入れが始まった。

「常に空気が全体によく通るように、空間を保つように意識して、薪を置いていってくださいね。」

私は、今回の煙突配置には絶対の自信を持っていたので、なんの心配もなかったが、最初のごく小さな炎は、とても良好なドラフトによる空気の流れを得て、音を立てながら、みるみるうちに大きな炎に育っていく。

「おお……早いですね……キャンプで焚き火をするようなイメージかと思っていましたが、それとは全然違いますね!」

いつも寡黙で冷静なK様ご夫妻のご主人が、この時ばかりは感嘆の声を上げた。こういう声が聴きたくて、この仕事に入れ込んできた私も、つい嬉しくなって、育った炎に太い薪をくべながら、運転のポイントを説明していく声も弾んだ。

余談になるかもしれないが、これはモキ製作所にも改善を申し入れているが、モキ製作所の薪ストーブならではの焚き方のコツは、平成27年現在、意外と知られていない。正規代理店として登録されているはずのに、それでも、どうやら「知らない」場合が少なくない。全国でユーザーさんが困っているので、ここに参考として挙げておく。

K様邸の薪ストーブは、自分で設置しておいて言うのもおこがましいかもしれないが、煙突の横引きを最小限にして、充分高い煙突トップまで、斜めを多用した煙突配置で美しく導いているために、煙突によるドラフトが非常に優れており、煙突が「いい加減」に設置された我が家の同型ストーブと比べて、はるかに「良い性能」が出ていた。

空気を絞った状態でも、炎が、糸を引くようにスーっと、手前から奥へと拡がっていくのである。

今、薪ストーブの煙突設計の主流として「室内でもシングルではなく二重管にする方が燃費が良い」と言われている理由だと思うが、具体的には、良好なドラフトによって流速が速くなるために、ドラフトが弱くて流速が遅い我が家のものに比べて、空気の供給量がごく少量でも、庫内全体に空気がよく回って、炎が薪の全体に「きれいに」拡がるのである。

音楽で管楽器をやっている方ならわかると思うが、「ピアニッシモ」がきれいに鳴らせるイメージが一番近い。

つまり、優れた煙突配置によって、良好なドラフトが得られる薪ストーブは、より少ない薪で、より少ない空気量でも、燻ることなく「きれいに」燃やせる領域が広いので、結果的に、室内に効率よく熱を取り出すことができて、燃費が良くなるのだと考えられる。

最高出力運転では、窓が全開になっているのに、部屋を暑いほどの暖かさにして一同に感嘆の声を上げさせ、お湯を沸かす能力も遺憾なく見せつけた薪ストーブは、熾火になって、弱火でのデモンストレーションを行う状態に移っていた。M社長たちも、自分達の仕事がうまくいったことを確認して、もうK様邸をあとにしていた。

「……やっぱり、この薪ストーブ……すごいですよ。空気調製口を、こんなに絞っているのに、これだけきれいな炎が上がっている。ウチの薪ストーブも、同じMD-80Uなんですけど、こうはいかない。」

私は、空気調製口を絞りながら、やはり弾んだ声でご主人に告げた。

ちなみに、MD-80Uの重要な特徴として、空気調製口が一つであるために、空気量の調整が非常に簡単であることが挙げられる。ここはMD-140Uを「選ばなかった」K様ご夫妻の、値段以外での「勝利」とも言えた。

「本体が同じなのに、性能が違う……それはつまり、煙突配置が良い、ということですか?」

「ええ、そういうことです。ここは、本当に、お金をかけて頂いた甲斐があったと思いますよ?」

私は、やっぱり、弾んだ声でご主人に答えた。

「ところで、これ、火を消すのって、どうするんですか?空気調整口を完全に閉めれば良いんでしたっけ?」

「ええ、そうですそうです。こうやって、完全に閉めれば、ですね……」

メラメラと穏やかに上がっていた赤色の炎は収まり、燻った煙で、庫内がたちまち暗くなる――はずで、あった

炎が、収まらない。

まったく予想もしていなかった事態に、私の頭の中は真っ白になった。首を傾げ、「あれ?……これは一体……どうした?」とか、意味のない言葉をつぶやきながら、空気調製口だとか、あちこちの閉まり具合を調べていく。

「火、消えませんね……というか、ものすごくきれいに、炎があがってますよね……これって、正常な状態なんですか?」

「……いや、ダメです。消えるはずなのに……これは、おかしいです。」

なんだかんだやっても、全然、状況が改善されない。たまらず、モキ製作所 担当者のF氏に電話を入れる。ちょうど休日で、電話の向こうでは、幼いお子さんの声が聴こえる。お父さんとしての貴重な休みのところ申し訳ないけど、どうしようもない。

「空気調製口を閉めても、火が、消えないんですよ……いや、熾火が残るとか、そういうレベルじゃなくてですね、炎が、収まらないんですよ……ええ、きれいな炎が上がってますよ?こんなの、私も見たことありませんよ……一体、何が起こっているんですかね?」

扉をロックするハンドルの具合を、扉がきつく閉まるように調整してみてもダメ。F氏も、なかなか実際に起こっている事態を、信じられないという感じが伝わる。事態の深刻さをなんとか伝えようと、携帯で、扉も空気調製口も全部しっかり閉じてもなお、きれいに炎が上がっている様子を撮影して送る。

ピントも手ブレも崩壊したような当時の実際の写真に、私の狼狽ぶりが良く出ている。

そんなふうに、F氏と、断続的に電話をかけあって相談し続けたが、状況は一向に改善されない。私は、電話口で思わず声を荒げた。

「なんでこんなことになるのか、原因も今のところ特定できていませんし、メーカーとして、とにかく出来るだけ早く、対応してもらえるように手配していただけませんか?」

――日も暮れていよいよ寒くなる中、大変すみませんが、薪が燃え尽きれば火は消えますので、このままでも、使って頂くことは、可能は可能ですので……また改めて連絡します……などと、消え入るような声で告げて、設置工事の日、私は、敗北感で一杯になりながら、K様邸をあとにしたのであった。

『現場で起こる「想定外」とは?(その2)〜メーカーとしてのモキ製作所の対応』へ続く

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