株式会社愛研 環境保全事業
モキ製作所の薪ストーブ 普及販売】

モキ製作所薪ストーブ生活イメージ

薪ストーブはどこに置くべきか(その2)〜南側案の復活採用

【導入事例〜K様邸物語】〜その3〜

薪ストーブ設置に関わる人間が持つべき資質――西側案の却下

薪ストーブ導入設置そのものは、実は「誰にでも」仕事にすることができる。

この物語の主役、K様ご夫妻のご主人が看破されたように「室内でまきを燃やすための鉄の覆いと、その上昇気流で廃気するドラフト装置の煙突」を、そのように機能するように、ただ設置してあげればいい。

確かに「機能させること」自体の難しさもあるが、基本は「火遊び」なので、自分で興味を持ってやり込んだ経験があれば、そのくらいは充分可能だからである。

しかし、薪ストーブ設置の「仕事の本質的な難しさ」は、「火遊び」自体がうまくいくかどうか、では決してない。もし、そうであるならば、たとえば、福島第一原発は、特段、何の問題もない原子力発電所であったはずである。

私は、今は営業としての仕事に専念しているが、もともとは技術屋だった。

その技術屋の端くれとして「仕事の本質的な難しさ」とは「想定すること」だと確信している。想定ができていなかった時点で、技術屋としては失敗、仕事としては最初から敗北しているのである。

福島第一原発の失敗の本質は、高さ15mの津波の来襲を「いつか、あり得るもの」として想定していなかったことである。想定できる機会はあったはずのに、おそらく政治・経済的な理由から、あえて想定せずに、楽観的な見通しを採用した。

原子力発電所としてあってはならない、現場での技術的失敗。その意味で、東電でこの問題に関わっていた技術屋の罪は、道義的には極めて重いと思う。

もし技術屋が、自分は法律を、規則を守っていたから、それで責任を果たした、というなら、それはもはや「技術屋」ではない。技術屋たるもの、自らの経験と誇りと良心、もっと言えば職業人としての自らの存在意義の全てをかけて「今後、何が起こり得るのか」を想定し、それに備えなければならない。

それこそが、技術屋としての矜持であり、技術屋として果たすべき仕事の本質だからである。

私は、薪ストーブの導入設置に関して、営業としての仕事はできるけど、技術屋としての仕事はできない。そこで技術屋として本事業に全面的に関わってもらえるよう、私が「この人なら」と見込んで、半ば無理やりお願いしたのがM工務店のM社長である。

すでに私は、M社長の仕事の本質が「現場力」にあることを実際の現場を共にして確認していた。彼は、建物の設計と建築自体を本業にしている技術屋にふさわしく、現場・現物を見て実に細かなことまで想定する。そして、その自らの想定に備えるべく、執念とも言える情熱と技術をもって現場・現物合わせをしてしまう。

もし、私の立ち上げた本事業に、ユーザーにとって他の薪ストーブ業者にはない「強み」があるとすれば、それは私ではない。このM社長の現場力による設置施工、それこそ、本事業の「強み」なのである。

【2017年7月追記※その後、数多くの設置施工を手掛けていった結果、今では私も技術屋としての関与もかなり積極的に行うようになって、モキ製作所の薪ストーブ本体の設置施工であれば、私が関与することでM工務店に直接依頼するよりも大きなメリットを提供できるようになっております。詳しくはこちら※】

このM社長のことは、K様ご夫妻には、初回打ち合わせで「そういう人がいる」ことを説明し「会うのを楽しみにして下さい」と伝えてあった。さて、M社長が初めて参加した、K様邸での第2回の現地打ち合わせである。

いつものように、パッと見、営業的な雰囲気からは程遠い無造作な風貌で(M社長、ごめんなさい)やって来た彼は、挨拶もそこそこ、西側案について、私が懸念していた、煙突掃除のために屋根に上るアプローチの問題や、離隔の問題についての私からの説明を、一通り黙って聞いて、ぽつり、と口火を切った。

「……西側案は、やめておいた方が良いと思いますよ。」

「え?どうして?やっぱり、屋根に上るのが難しいから?」

「それもありますが……西側の隣地の問題ですよ。今は、畑になっていますが、これ、K様の土地ではないですよね?」

「……」

「ずっと、今みたいな畑のままなら、良いと思いますよ。煙突は、屋根の軒先からの離隔を確保しても、たぶん敷地内に収まると思います。ギリギリですけど、隣地の領域を侵すことはないでしょう。けど、家が建ったら、揉める可能性があります。」

「煙突が、近すぎて、ですか。」

「そうです。いくら無煙といったって、やっぱり、煙やススは出ますからね。煙突が敷地境界にあると、将来、隣に家が建ってしまった時点で、困るという苦情が来て、薪ストーブが使えなくなる可能性がある。」

「……」

西側案の本当の問題点を、一目で見抜いたのは、やはり住宅建築の世界に長年身を置き続けた経験なのだろう。今は全然問題なく、長年農地のままで、これからも農地であろうという周辺も含めた土地利用状況を見る限り、将来、ここに住宅が建ったら問題になるという想定は、少なくとも私には持てなかった。

「確かに、そうですね。それは困ります。揉め事は避けたい。西側案はダメですね。」

K様夫妻のご主人の判断は、常に、迅速かつ的確である。実際に揉め事になるかどうかについて、設置予定である薪ストーブのMD-80Uを使っている私の経験では、周囲に散るススは極めて少ない。しかし「ゼロ」でない以上、この揉め事リスクはどうしても避けられない。

ちなみに、私は「本業」である環境調査の関係で、自宅のベランダで雨水を採取測定しているが、採取容器と数メートルも離れていないMD-80Uの煙突の実際の影響としては、晴天時に、ごく少量、100平方センチメートルあたり5粒程度の小さなススが、採取容器に入り込んでいる程度である。

ただ、実際にはどれほどわずかな影響だったとしても、この問題がある限り、西側案ではご主人が絶対に納得してくれないことは、私には、もうわかっていた。

そうして、このM社長の指摘によって、西側案を前提としてご主人とこれまで散々議論を重ねてきた、端末移設の問題も、耐震固定をどうするかという問題も、M社長とバトルをしなければならないと覚悟していた離隔の問題も、何もかもが吹っ飛んで、全くの白紙に戻ってしまったのである。

M社長のアイデアによる南側案の復活採用

「しかし…じゃあ、M社長としては、どこに薪ストーブを設置すればいいと思います?中央だと屋根を抜かなきゃダメだし、南側は煙突を抜こうにもこんな状況だし、かといって東側は状況からして暖房器具自体置けませんよ。」

「南側……置けると思いますよ。」

「え?どうやって?…だって、壁から煙突を出しても、出した場所に、こんなにバルコニーやら屋根があったら、立ち上げようがないじゃないですか。」

「真っすぐで考えると無理なんですけど、斜めにすれば、たぶんできますよ。」

「斜めって…ああ、薪ストーブからの横引きを、壁に対して直角ではなくて、斜めの角度で外に出して、バルコニーの端から立ち上げるんですか?でも、そんな壁に煙突を斜めに通せるようなメガネ石なんてありましたっけ?」

「いや、そうではなくてですね……」

口で説明されても、さっぱりわからなかった煙突配置。絵に描いてみると、こういう感じになる。言われてみれば「なあんだ」ということなのだが、私には、この発想は持てなかった。文章でも煙突経路を示しておく。

  1. まず、通常の壁抜きと同様に、本体から立ち上げた煙突を90°T字管で横引きにつなげて壁から抜く。
  2. 通常は直管が真上に立ち上がるように横引きに接続する90°T字管を、45°回転させて接続して直管が斜めに立ち上がるようにする。
  3. 斜め45°に立ち上がった直管をベランダの角をかわす先まで伸ばして、そこから45°固定エルボ管でベランダ側面と壁に添って真上に曲げなおす。
  4. 真上に伸びる直管を屋根の軒をかわすためにベランダの高さあたりから30°固定エルボ管で軒の外に向けて曲げる。
  5. 直管を軒をかわす先まで伸ばして、そこから30°固定エルボ管で真上に曲げ直す。

つまり、経路を合計5回も曲げる煙突設計である。このようにして、横引き長さを最小限にしながら、かつ、斜めを多用して抵抗を減らしながらトップまで導く。この設計の最大の利点は、なんといっても複雑な離隔を確保しながらも、煙突を曲げることによるドラフト低下を最小限にしたことである。

念のため解説しておくと、同じ煙突を曲げるのでも、直角と斜めでは、ドラフト低下への影響が全く違う。「流体(空気)が流れる抵抗を減らす」という意味では、直角に曲げるよりも、穏やかな角度で曲げた方が良さそうだというのは、容易に想像がつくことだと思う。

「うん、南側に置けるのであれば、絶対にその方が良いです。南側は庭で、隣地とも離れているから、隣地に家が建っても心配ない。」

「離隔も……特に、何の問題なさそうですね。壁面のコンセントを使えるようにするには、少し、ストーブを前に出す必要がありますが、大丈夫ですか?。」

「どのくらいですか?」

「そうですね……一番壁に寄せた設置位置から、5センチも前に出せば。」

「ここであれば、5センチくらい全然大丈夫です。生活動線上、それほど厳しい場所ではないので。」

「えっと……あと問題になるのは、エアコンか……M社長、エアコンの移設ってできますか?」

「ええ、ウチでやれますよ。薪ストーブの設置工事と同時にやればいいでしょう。エアコンの電源はコードをこの柱をかわしながら延長すればいいので……」

「ついでに、この室外機の場所も変えてもらっていいですか?できれば、ここ、作業スペースにしたいんですよ。前から、この室外機は邪魔だなあと思ってましてね……」

「あと、ウッドデッキの屋根が、端のほうだけ、一部、煙突にあたってしまうかもしれませんが、その場合、そのあたる部分だけは、切っちゃってもいいですか?」

「ああ、いいです、いいです。これ、自分で作ったものなので、端っこをちょっと切ったところで、そんなの、なんとでもなります(笑)」

これまで、あれだけ色々悩んだのが、一体なんだったのか?というくらいに、色んなことがあっさりと、トントン拍子に決まっていく。私は「90°T字管は横引きから真上に立ち上げるもの」という固定観念から、この発想が初回打ち合わせ時にできなかった自分自身を恥じたほどである。

ともあれ、この、M社長の「目からウロコ」「ウルトラC」的な提案(私にしてみれば、だが)によって、南側案が復活採用され、それに基づいて薪ストーブの具体的な設置検討が進められることとなった。

もっと正確には、この南側案がうまく行かなければ、K様邸で薪ストーブを導入することは、そもそも断念しなければならない(さもなくば、家での生活様式を、動線レベルではなく「根本的に」変更しなければならない)くらい、「限られた解」だったのである。

南側案での懸念――煙突掃除をどうするか?そして……

「しかし、M社長。この南側案で行く場合、煙突掃除はどうするんですか?屋根が下がる方向にある煙突に、屋根の上から手を伸ばしてブラシを突っ込むとか?」

「いや、屋根には登りたくないです。この家の屋根って、けっこう急なんですよ。一度登ったことがあるんですが、すごく怖いですよ?」

「ベランダからやれると思いますよ。トップから2本分くらい外してしまえば。」

「ああ、そうか。トップから何メートル分か、煙突を外せば……それで、大丈夫ですかね?」

「大丈夫だと思いますよ。煙突2本分くらいであれば、手で持てますからね。」

M社長の説明によれば、煙突の最後の固定部分は屋根の軒下の木材にネジ止めされた固定バンドなる。そこに、ベランダから手を伸ばして、固定バンドのネジを外して、トップから何メートルか分の煙突をベランダの高さまで引き抜く。引き抜いたところから掃除ブラシを突っ込めば良いというのである。

「ベランダから手を伸ばして、軒下にある固定ネジを外す……実際に、手が届きますかね?」

「届くと思いますよ。私、背は高いですから(笑)でも、具体的に、煙突って、ベランダからどのくらい離れた位置に設置されることになるんですか?」

「離隔の問題から、煙突はベランダから15センチ離します。そこに煙突の表面がきて、煙突の直径が20センチ。ですから、外さなきゃならないネジは、ベランダから水平距離で、だいたい40センチくらい離れた位置になります。その軒下ということですね。」

「そのくらいだったら、大丈夫だと思います。」

「……実際に、そこに手が届くかどうか、ちょっと、試されてみた方が良いんじゃないですかね?」

実際に、ご主人と、M社長の二人でベランダに上がって、想定される煙突の固定位置にご主人が手を伸ばしてみる。ご主人は、たしかに、長身である。

「大丈夫ですね。届きます。」

私は、南側案を断念する理由となった煙突配置の問題が、あまりに簡単に解決してしまったことに、「それで本当に良いのか」と半信半疑ながらも、その一方で、南側案であれば、離隔や移設などの問題が、西側案よりもずっと簡単になることに安堵した。

「これで、やっと、見積もりを出して頂けるんですよね?(笑)」

「ええ、そういうことになります……でも、ちょっと、お時間をいただくことになるかもしれません。煙突の部材なんですけど、コストを下げるために、仕入れ先を安いところに変更しようかとも思ってまして……」

そう、営業としての私は、南側案で行けるなら……という安堵とともに、言いようのない不安も、漠然と感じ始めていた。

この第2回の打ち合わせによって南側案が復活採用され、正確には、将来に渡って安心して薪ストーブを使って頂くには「それしかない」ことはわかった。そしてK様ご夫妻が、暖房器具としての設置位置の美しさや、生活動線のスムーズさから、南側案を大いに歓迎していることも間違いない。

しかし、私が西側案を提案したそもそもの理由は、煙突設置関係のコストが最低限というほど安く上がる、すなわち、薪ストーブ導入のための総コストが相当抑えられるという、明らかな見通しがあったからだ。

それに対して、南側案は、これを実現可能にするためには、この5回も曲げる煙突設計しかない。それは「とても贅沢な」煙突設計である。すでに実際の設置工事を手掛ける中で、煙突部材の高さを実感し、頭を痛めていた私からすると、南側案での煙突設計が「とんでもなく」高額なものになることは、想像に難くなかった。

煙突部材の値段は、実際どのくらいになって、それに大きく支配されることになる薪ストーブの総設置コストは、果たしてK様ご夫妻の了承を得られるものになるのだろうか――

また、煙突掃除は、本当に、そんなにうまく行くものだろうか――。

南側案の復活採用が技術的に正しい方針であることには疑いはなかった。しかし、営業として、その実現性に不安を感じた私は、第2回の現地打合せ後、日を置かずに、パートナーとしてのM工務店へ来訪したい旨を連絡したのであった。

『煙突掃除にどれほど備えるか〜煙突設置プラン見直し』へ続く

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