株式会社愛研 環境保全事業
モキ製作所の薪ストーブ 普及販売】

モキ製作所薪ストーブ生活イメージ

薪ストーブはどこに置くべきか(その1)〜西側案への合意

【導入事例〜K様邸物語】〜その2〜

最初で、最大の問題――薪ストーブはどこに置くべきか?

薪ストーブ導入設置を考えた場合、人は、まず、何を考えるだろうか。

多くの場合、いきなり「本体をどれにするか」とはならないのは、本質的に、薪ストーブが、決して趣味のものなどではなく、やはり実用的な暖房器具として、まず期待されていることを示している。

薪ストーブを置くとすれば、どこに置くと良いだろうか?暖まって、楽しくて、使いやすいだろうか?

薪ストーブを置こうと思った多くの人は、ふつう、暖房効率や生活動線のこと、つまり一家のそれぞれの食事や、団らんや、くつろぐ場所を思い浮かべて、それに合わせて、ここに薪ストーブがあれば幸せだろうな、と思いを巡らせる。

ちょっと気の効いた人でも、薪をどこにストックしておいて、どこから運び込もうか、という作業動線を考えることが関の山である。少なくともユーザーとしての私は、作業動線までは全然考えも及ばなかった。

ふつうの暖房器具であれば、暖房効率や生活動線に合わせて設置すれば良い。テーブルやソファ、テレビなど普通の家具と同じである。エアコンは、だからたいてい、まあまあ「ユーザーにとって都合の良い場所」に設置される。

しかし、こと薪ストーブに限っては、なかなか、そうもいかない。少なくとも薪ストーブを「ちゃんと」導入設置しようとするプロは、ユーザーの生活のイメージは実はそれほど重視せず、真っ先に以下のことを考える。

煙突は、どこから、どう抜こうか?煙突をどう配置するのが一番良いか?そんな設置は実際に可能か?

幸いにして、薪ストーブの導入を検討されている段階で、この文章を読んで頂いていらしゃる方なら、ぜひ、このことだけを覚えておいていただきたい。

煙突配置、煙突設計こそが、薪ストーブを実際に導入して、幸せになれるかどうかを、事実上決めてしまうのである。もし、その家の薪ストーブ暖房にDNAがあるとすれば、煙突配置こそが、それにあたる。その理由は、箇条書きに端的に言うと以下のとおりである。

全然、ピンと来ないとは思われるが、説明すると、こういうことである。そもそも、薪ストーブが何で燃えるかというと、空気がちゃんと通るからである。もし空気が満足に通らないと、煙がくすぶるばかりの、ただの鉄の箱に過ぎない。

では、具体的に薪ストーブという箱の中にどうして空気が通るのか。実はそれは、煙突内の上昇気流、「引き」、「ドラフト」の強さが本質を決める。一般に、このドラフトが強ければ強いほど、燃えやすく、扱いやすい、つまり、使いやすい薪ストーブになる。

この物語の主役、K様ご夫妻のご主人は、私の説明を受けたあとのメールで、薪ストーブという暖房装置について、次のような言葉で端的に表現された。

「要するに室内でまきを燃やすための鉄の覆いと、その上昇気流で廃気するドラフト装置の煙突だと理解しました。」

私は、内心「私のあの説明を、こんなに端的にまとめてしまうとは…えらい人と関わってしまったな」と、サービスを提供者する側として身が引きしまる思いがしたものだが、この煙突についての本質的な理解があるかないかで、薪ストーブの導入が成功するか、失敗するかが、かなりの部分で、決まってしまう。

薪ストーブの導入を検討されていらっしゃるなら、まずは、導入した薪ストーブが実際に使いやすいかどうかは、煙突配置がその大部分を決めてしまうという事実を覚えていただきたい。

そして、導入コストも維持コストも安全性も、煙突配置が大きく左右してしまう。それは、まず、煙突部材が高いということによる。特に「曲げる回数を増やすほど高くなる」。具体的には、煙突部材は、このような感じの値段である。

後段2つが、煙突配置で経路を曲げるためだけの部材だが、レールのように距離を稼ぐこともなく「ただ曲げる」だけの部材のくせに、やたら値段が高いのが、おわかりいただけるだろうか。

言葉を替えれば、設置コスト総額をできうだけ安価にしながらも、薪ストーブ導入を成功させる条件としては「どうすれば、煙突を曲げることなく、安全性(煙突掃除その他、様々な問題を含む)を確保できるか?」という問題がクリアーできれば良いのである。

あと、煙突配置が関わる維持コストと安全性については、これからの物語の中で、重要なテーマとして取り上げられるので、そこで理解を深めて欲しい。

さて、ずいぶん前置きが長くなってしまったが、とても、大切なことなので、ぜひ理解を深めていただくとして(煙突配置が薪ストーブに関するコストの全体を支配することの詳細についてはこちらの記事にまとめてある。よろしければぜひご一読を)。それでは、そのようなことを念頭に置きながら、K様邸での実際の選択である。

K様ご夫妻が考えたストーブ配置の3つの案からの取捨選択

K様ご夫妻は、やはり、薪ストーブをどこに置くか?という問題を最初に検討されていて、初回打合せで、薪ストーブの設置場所となるリビング・ダイニング・キッチンの大きな部屋の中での具体的な置き場所として、以下の3つの案を示された。平面図(抜粋)と合わせて、以下に示す。

これらの3案のうち、仮に、煙突もない石油ストーブのような、遠赤外線と暖かい空気の発生装置であるとすれば、空調効果を考えると中央案が最も合理的である。

さらに、薪ストーブは団らん的な機能も備えているため(そのあたりにについてはこちら)、本来、最も、薪ストーブの楽しさを発揮できるのは、中央案の配置である。もっとも、夏場には取り外さない限り単に邪魔になるという問題はあったが。

しかし、この中央案は最初に却下された。煙突を上に抜く煙突設置工事の問題である。実は、私たちは、既存住宅での屋根抜きを、よほどの事情がない限り、お勧めしていない(その理由の詳細は、こちらこちら。ついでに「屋根抜き」の問題からよくわかる「薪ストーブ設置業者の質」についての考察はこちらにありますので、よろしければ、ついでにどうぞ)。

しかも本件では「ここを煙突を抜いていく工事は、かなり大変で高くつくだろう」と、誰が見ても思うような天井だったので、K様ご夫妻も中央案の却下には、すぐさま同意された。また、煙突の屋根抜きのリスクについても、すぐに理解をして頂いた。

中央案の却下は迷いなかったが、悩ましかったのは、南側案である。ここにはエアコンが設置されていたことが示すように、大きな部屋を均一に暖める暖房器具の設置場所としては自然であり、団らん的にも良好であり、壁際なので、夏場にそのままにしておいてもそれほど邪魔にはならない。

中央案に煙突の問題がなかったしても南側案とどちらが良いか迷うくらい合理的な設置場所であり、煙突を屋根抜きにしない方針にも合致していた。

しかし、問題は、煙突を南側の壁から出した「その先」だった。まずバルコニーがあり、煙突の「横引き」をバルコニーをかわすところまで、煙突のドラフトが弱まることを覚悟で無理やり伸ばしたとしても、そこから上に伸ばした煙突は屋根の軒から水平距離1mもない。冬の強い風が屋根の軒の影響で巻き込まれて煙突から室内に煙を逆流させる可能性を考えれば、屋根の軒から最低でも1mは高く煙突トップを取りたい。

最後の固定可能位置であるベランダから、たぶん、3m程度も伸びてしまう煙突の固定を、強風を想定した場合に、どうすればいいのか?仮にうまく固定できとしても、どうやって煙突を掃除するのか?……煙突設置自体は可能だが、その後「使いやすい」「長年安全に使える」とは、到底言えなかった。

さらに、初回打合せで圧倒されたのは、家屋南側に、ご主人が自身で作られた屋根付きのウッドデッキ、とても立派なテラスの存在である。奥様によれば、この家に住み始めて洗濯物を干したりするのが当初とても大変だったそうで、それを見かねたご主人が、この家に住み始めてすぐに作り始めた、今や生活に欠かせない屋根付きのテラス。

室内にあるエアコンは移設すれば済むとしても、その先がどうしようもない。南側は、その位置と家の開口部接続のメリットを最大限生かした、せっかくの重要な生活スペースなのに、そこに煙突が入り込んでそれを壊してしまうのは、どうにも忍びない。

「南側案は、本当は良い案ですが、この状況では無理でしょう…」

ご主人と、南側案も、却下ということで、たちまち合意したのであった。

消極的な結論としての西側案の利点と課題

K様ご夫妻があらかじめ検討され、私も、実際の生活動線を拝見して、それらの案が妥当だと判断した3案のうち、中央案と南側案が、煙突設置の問題から却下となり、残りは西側案だけとなったが、この西側案は、他の案にはない圧倒的な利点を持っていた。

すなわち他の2案に比べれば、煙突設置、煙突配置が非常に優れていたのである。

具体的には、屋根の軒の張り出しも南側に比べて半分程度しかないために、短距離の横引きで立ち上げることができ、壁出しとしては最小限の曲げ回数(直角の2回だけ)で配置可能であり、設置工事も固定も無理がなく、屋根にさえ安全に上ることができれば、煙突掃除も容易であることが見て取れた。

「生活動線からすると、動線を変えなければならないかとは思いますが、暖房効率としては、ストーブの性能でカバーできちゃいますし、煙突のことを考えれば、ここしかないと思いますよ?」

私は、そのように説明して、ご主人も奥様も納得され、初回打合せは西側案を結論として落ち着いた。その後、南側案が復活採用され、予想外の成功事例ということにつながっていくのだが、単に設置コストの問題だけを考えれば、この西側案であれば、もっともっと低コストに薪ストーブを導入設置することができたと、私は今でも確信している。

しかし、西側案には、どうやって安全に屋根に登るか?という問題(案としては、ベランダから梯子のようなもので登ることを想定)だけでなく、やはり、本来の「使いやすさ」、つまり暖房効率や生活動線確保の観点からすると、様々な問題を抱えていた。そもそも建物の設計上、この部屋の南西端というスペースは、様々な「機能」を集中させた場所だったのである。

さらに、建物の設計上からの当然の成り行きでもあるが、室内側の動線スペースとして「取り合い」が難しい貴重な場所であるために、「大きな」薪ストーブを設置するとしても、可能な限り、壁側に寄せる必要があった。その場合に、煙突と壁との離隔を充分確保できるかという問題も、ストーブ本体と壁との離隔の問題もあった。

これらの多数の問題は、その次の打ち合わせの日に、南側案が復活採用されるまで、ずいぶんご主人を悩ませた。それでも、ご主人からは、基本的な原則、考え方を示して頂いていた。すなわち、コストをかけてでも、長期的な使いやすさ、機能的な合理性を優先したいと。

「生活導線の問題と、端末の移設費用の天秤かと思います。端末を移設しないなら、配線をいじるだけのある程度の隙間が必要ですが、デットスペースを作るのは好きではありません。移設ができるのならこの際、移設してしまいたいです。」(西側案合意後のメール)

難しい問題があっても、施主として、このような「ぶれない姿勢」が終始一貫していたことが、その後、私たちからの「ふつうは、まずない。この手があったか!」(後日、現地を見た モキ製作所 担当者F氏談)という提案を可能にし、また、付随する様々な決定を迅速かつ容易にしたことは間違いない。

ただただ、上質な暖かさと、美味しい料理と、そして何よりも使いやすさを求めて。

私は、ご夫妻の、その筋の通った一途さが、もしかしたら、私たちを呼び寄せたのではないか、とすら思うのである。

私たち――そう、この物語には、薪ストーブを設置する側のキーパーソンとして、私が本事業のパートナーとしてお願いしているM工務店のM社長という人が登場する。この経験豊かな「稀有な職人的人物」がいなければ、今回の薪ストーブ設置を、ここまでの成功事例とすることはできなかった。

M社長とは、とあるご縁から紹介いただき、私がその仕事ぶりに期待してラブコールを送って、M社長がしぶしぶ(?)力を貸してくれることになったので、私はこの事業を始めることができたという関係である。

具体的な仕事ぶりも、実際に薪ストーブの設置工事を依頼してみて「期待以上」であることを確認していたし、その際、薪ストーブの設置をめぐる様々な問題について、山のような議論を積んできたので、私はM社長の仕事ぶりには、絶大な信頼を置いている。

ただ、だからこそ、私は、自分が「これしかありません」と推して、ご夫妻と合意に至っていた西側案に、不安を持っていた。M社長は、首を縦に振ってくれるだろうかと。私としては、特に、安全(低温炭化防止)上の離隔の問題で「揉める」ことを心配していた。

M社長は、安全面、すなわち本体や煙突といった熱源と家の壁や天井との「離隔」の確保については、「法律を満たせばあとは普段の管理次第」という主義の私からすると、過剰ではないか?と思うほど慎重である。

ところが、西側案では、美しい生活動線確保の観点から、薪ストーブ本体をできるだけ壁に寄せなければならない。そうしなければ、頭が良くて視点の鋭いご主人の期待に応えることができないのだが、それは、離隔を可能な限り短くすることを意味する。実際問題、どこまで寄せれるものだろうかと。

「現地を見させていただいて、それで、判断します。」

いくら状況を知らせても、その一言しか言わなかったM社長は、結果的には、やはり経験不足な私からすると「目からウロコ」「ウルトラC」的な提案によって、状況を打開する。

初回打合せから1週間後、何回かのメールのやり取りを通して「色々と煮詰めた」はずのあとの、M社長が初めて加わった第2回の打合せ。ここで、事態は大きく動く。

まるで「この家族が、薪ストーブを入れて幸せになるなら、こうするほかにない」――K様邸に、もし神様がついているのなら、私たちに、そうささやいてくれたかのように――

『薪ストーブはどこに置くべきか(その2)〜南側案の復活採用』へ続く

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